公認会計士を目指して間もないころに見た資格案内のパンフレットには、公認会計士の資格をとると監査業務、コンサルティング業務など幅広い業務で活躍できる、と書いてありました。無事に試験に合格してほっとしたのもつかの間、当たり前のことのように監査法人に入所し、がむしゃらに監査業務に携わりました。

 修了考査に合格し、晴れて「試験合格者」から「公認会計士」となりましたが、ふと会計士試験を受けたころに読んだパンフレットのことを思い出していました。会計士は、監査以外にも幅広い業務で活躍できる資格であると書いてあったと。しかし、現実の自分は、監査法人の先輩や同期が一人、二人と退職し、転職したり起業したりとさまざまな道へ進んでいくのを、横目に見ているだけでした。

私は監査法人での勤務もとてもやりがいを感じて好きでしたが、ふと立ち止まって考えたときに、せっかく努力して資格を取得したからには、監査業務以外の実務にもチャレンジしてみたいと思うようになりました。

一番のきっかけは、自分のカフェを持ちたい、という友人の相談を受けたことです。友人は、コーヒーやスイーツについては詳しいけれど、税務や法律などの手続面や、融資を受けるに当たり必要な事業計画の立て方がわからない。私は、減価償却という概念を簿記を知らない方へ説明することが初めてで、専門的なことをかみくだいて説明する難しさを痛感しました。また、事業を始めるにあたっての手続は何一つ自信を持って答えられませんでした。結局そのときは別の税理士を紹介し、友人は無事その税理士と二人三脚でカフェオーナーとしての一歩を踏み出していきました。私も税務業務や創業支援を経験していれば、友人の役に立てたのかもしれない、友人に限らず夢を追う多くの人の役に立てるのかもしれないと思い、監査法人を卒業し、会計事務所で数年間の勤務を経て独立開業しました。

監査法人での経験は、決して無駄ではなく、むしろ、公認会計士としての土台を作るためには最適の環境でした。しかし、会計士業務の選択肢は監査だけではありません。監査法人での経験を活かして、監査法人以外の道でも多くの方の手助けをできる素晴らしい資格だと思います。現在は、監査法人で勤務していたころよりもお客様を身近に感じることができ、夢を追い始めたばかりのお客様とともに成長できることの喜びを日々感じています。