どの仕事にも必ず対価があり、それを回収するまでが仕事です。独立したら自身のサービスに報酬を設定するのは基本的には自分自身です。支払う側は少しでも安いほうがいい、受け取る側は少しでも高いほうがいい、という相反関係のなか、双方納得感のある値段を決めることは難しいことです。では、値決めについてどのように考えればよいのでしょうか。

値段設定のポイントとして、筆者は以下を意識しています。

1.事務所の経営戦略

あなたは独立会計士としてどのような経営をしていきたいと考えていますか。東京の一等地で高付加価値型、地元密着型の会計事務所、大規模化して薄利多売型、などにより、値段設定は異なります。

とはいえ、独立当初から確固たる戦略を持って始めるよりは、ご縁のある仕事を受けていくうちに自身の方向性を定めていくかたが多いと思いますので、この点は最初から気にしすぎなくとも良いかもしれません。

2.コストと利益

大手監査法人も個人事務所も基本的な考え方は同じで、当たり前のことですが「原価+利益」で設定します。原価は主に人件費、事務所経営に関する経費ですが、自身の理想の取り分、間接経費も考慮することが大切です。固定費がそれほどかからない事務所であれば、相対的に安く設定できるでしょう。大手監査法人での経験を活かして同様のサービス提供ができる自信のある会計士であれば、「大手と同じクオリティー、しかし報酬は大手より安価」という強みで営業することもできるでしょう。

3.同業者の報酬水準をチェックする

同じようなサービスで同じような専門家に業務を依頼する場合、個人的な信頼関係や思い入れがない限り、安い方を選ぶのが通常です。供給する専門家が多ければ尚のことです。料金をウェブサイトで明示している同業者は多いので、一度参考にしてみてはいかがでしょうか。顧客側も簡単に検索できるので、専門家報酬の相場観を知っていることが多く、ある程度の目安を持っているものです。これだけコストがかかっている、付加価値を提供しているのだと専門家側が主張したところで、最終的には市場が決めるのです。

4.顧客心理をよく考える

顧客が気持ちよく支払えるよう、支払う側としての心理を理解する気配りも必要と思います。

まず、顧客の財布事情を考慮すること。法人/個人、キャッシュリッチ企業/スタートアップで資金繰りに厳しい企業、など顧客ごとに異なる条件のなか無理なく支払ってもらえる金額であるか?と考慮することは大切です。

また、報酬の提示をするとき、2つ以上の案を用意していくことをおすすめします。支払う側は安いに越したことはないと考えますので、業務内容をしぼった安めの案も作っていくのです。1つの案だけの場合、その提案を受け入れる/受け入れないで判断されますので、高いと感じさせてしまったら契約につながりにくいのです。しかし、2つ以上の案を出されると、アクションとしては受け入れることを前提に「どれかを選択すること」に主眼が移り、経験上、受注率は高まる実感があります。

賛否が分かれるかもしれませんが、必要以上に値引きをしないことも大切と思います。値引き前の金額は何だったのかと思われるからです。

最後に、筆者の個人的なポリシーを添えておきます。自身が誰かに何かを発注する際、経営の意思決定上、値段はある程度気にしますが、誠意をもって提示されたものについては値切らないようにしています。その金額が法外におかしいと思うものでない限り、その業務と対価を尊重したいからです。

自身の決めた金額で契約が成立し、入金があったことを確認するとき、独立会計士ならではの嬉しさや達成感があるのではないでしょうか。一方で、双方で決めた期限までにご入金のないお客様には、それとなく促すことも必要ですので、これまた神経を使う場面です。独立を視野に入れてキャリアを迷われている方は、これらを醍醐味と思うか面倒と思うかも検討のポイントとなるのではないでしょうか。