公認会計士の視点から、今注目の新規上場企業を紹介し、財務分析を行います。

2011年3月に全線開業した九州新幹線や2013年10月に運行開始したクルーズトレイン「ななつ星in九州」で高い知名度をもつ九州旅客鉄道株式会社(以下、JR九州)について企業分析を行います。

会社名 九州旅客鉄道株式会社
証券コード 9142
市場 東京証券取引所(上場予定日:2016年10月25日)
福岡証券取引所(上場予定日:2016年10月26日)
業種 陸運業
事業内容 運輸サービス、建設、駅ビル・不動産、流通・外食及びその他事業
設立 1987年4月1日
従業員数 7,870人(2016年7月31日現在)
代表取締役 青柳 俊彦
事業戦略 「JR九州グループ中期経営計画2016-2018」によれば、鉄道事業においては安全・安心・快適な鉄道基盤の強化、ブランドや連携の強化による収益力の増進、技術革新と効率的な事業運営の追求を掲げています。また、主力の成長分野である駅ビル・不動産事業や流通・外食事業等を九州エリアにおいて積極的に展開、さらに、流通・外食事業等を九州エリア外にまで拡大推進することにより、企業価値の向上を図っています。

 

会計士の5期間財務分析

平成24年3月期から平成28年3月期(以下、当期)までの財務情報を用いて、公認会計士の視点から財務分析を行いました。

売上推移

  • 営業収益は5期連続で3,000億円を超え、毎期増加しています。当期の売上高成長率は5.8%と高い水準でした。
  • 当期の報告セグメント毎の売上高構成比率は、運輸サービスが47%、建設が7%、駅ビル・不動産が15%、流通・外食が25%、その他が6%となっており、本業の運輸サービスによる営業収益が半数近くを占めています。

会社の利益構造

  • 経常利益は5期連続黒字計上で平均232億円、親会社株主に帰属する当期純利益は当期を除く4期連続黒字計上で平均98億円となりました。なお、当期は税金等調整前当期純損失4,444億円、親会社株主に帰属する当期純損失4,330億円となりましたが、資産価値を適正化するための会計処理を実施した結果計上された減損損失5,215億円(うち鉄道事業固定資産の減損損失は5,203億円)が大きく影響しているため、一過性の損失と考えられます。
  • 当期の報告セグメント毎の利益又は損失(営業損益ベース)は、運輸サービスが▲105億円、建設が61億円、駅ビル・不動産が204億円、流通・外食が34億円、その他が24億円となっており(セグメント間取引▲9億円消去前の金額)、本業の赤字を駅ビル・不動産事業等が補てんする構造となっています。
  • 当期に経営安定基金3,877億円(前期末4,549億円)を取り崩し、平成53年3月までの新幹線貸付料合計2,205億円の支払い等に充当しています。このため、従来発生していた経営安定基金運用収益(当期111億円)は今後計上されなくなります。他方で、鉄道事業固定資産(新幹線貸付料に係る長期前払費用を含む)について減損損失を計上した結果、次年度以降の鉄道施設貸付料(当期102億円)及び減価償却費(当期249億円)による負担が大幅に軽減されることにより、鉄道事業損益は押し上げられることが予想されます。なお、実質的な鉄道事業による収益獲得能力の向上とは関連しないため、これによる収益改善効果は限定的であると考えられます。

会社の資本構成

  • 当期末における自己資本比率は47%、流動比率は113%、固定比率は157%となっています。自己資本比率及び流動比率は良好で、一般的な目安から安全性に問題はないと思われます。他方、固定比率は一般的な目安から考えると高めです。但し、事業の性質上多額の固定資産への設備投資が必要となる以上、業界の特性と考えるのが妥当です。
  • 当期末の純資産合計は3,057億円です。資本剰余金が経営安定基金の振替により3,877億円増加し5,597億円に、利益剰余金が親会社株主に帰属する当期純損失の計上により▲2,833億円になりました。過年度の最終利益の金額や配当性向30%程度を目安にしている点を勘案すると、プラスに転じるにはある程度の期間を要すると考えられます。

PER(予想株価収益率)

  • 2016年9月15日公表の「平成29年3月期の業績予想について」によると、平成29年3月期の1株当たり当期純利益は23875銭となっています。また、同日時点での想定価格は2,450円とされています。以上より、予想PERは10.26倍となります。

企業価値に影響を与える外部的要因

  • JR九州はその公益的性質や法規制等に基づく制約により、経費削減を柔軟に行うことが困難である可能性があります。
  • 短期的には「平成28年熊本地震」等の影響を受ける可能性があります。
  • 長期的には九州地域の人口減少等の影響を受ける可能性があります。