7人の士~会計士同期7人の物語~第2回:加東 副業始める
加東「荒井くん、この記述に関するエビデンス入手してる?分析の裏付けとしてのエビデンスの入手も監査の心証を得るためには必要だよ。」
7人で酒を酌み交わした日の翌週、加東はいつものクライアントの会議室で、入所1年目の荒井の監査調書のレビューを実施していた。
加東 正志(かとう ただし)。入社6年目、主に製造業を中心とした中規模企業の主査を複数社担当している。このクライアントの主査も3年目を迎え、自分なりに監査手続のスタイルを確立しつつあった。
荒井「すみません、まだ入手していませんでした。急ぎクライアントへ依頼します。」
加東「うん、そうしてもらえるのがいいかな。・・・あと、ここの文書化のしかただけど、結論から先に書くとレビュアーに伝わりやすいと思うよ。論文式試験のときにも結論から先に記述していく方法を専門学校で習ったと思うけれど、それと同じように考えてみて。」
荒井「大変参考になります。早速見直してみます。」
そんなことを話しているうちに、ランチタイムがやってきた。今日は午後からマネージャーが現場に来るが、それまでは荒井と二人だ。加東は荒井とランチに繰り出した。
荒井「加東さん、いい店知ってますね!この銀だらの西京焼きすごくウマイです。」
加東「このクライアント来るときは必ず1回はこの店に来ているよ。炭火焼きなのに1000円で食べれて、ごはんもおかわりできるし、僕的には結構コスパいいなぁと思っているんだよね。」
荒井「さすがです。こんなに美味しいランチ食べられて、しかも、加東さんとお仕事できるなんて俺は本当に運がいいですよ。同期の間でも、加東さんはコーチングも丁寧で優しいし、調書の書き方がすごく参考になるって評判だったので楽しみにしていたんです。」
加東「そんな噂が荒井くんの同期たちの間で出回っているの?全然知らなかった。そんなこと言われているなんて嬉しいけどちょっと恥ずかしいね。」
荒井「今度、新人向けに調書の書き方を講義していただけませんか?加東さんの話聞きたい人たくさんいるんですよ。」
加東「僕なんかで良ければ、閑散期に入った頃にでもやってみようか。」
加東はそう言ったところで、ふと、先日、千秋から最新の会計基準について勉強会がしたいと言われていたことを思い出した。
加東「そうだ、ちょうど僕の同期とも会計基準の勉強会をしようかと話していたところだったから、調書の書き方のついでに最新の会計基準についてのまとめ資料もおまけで配布しちゃおうかな。」
荒井「加東さん、それすごく有難いです!楽しみにしております!!」
それから2か月後。加東が独自で行った新人向けセミナーが盛況となったことは言うまでもなかった。そして、予想に反し、新人だけでなく加東の同期レベルの会計士も多く出席した。
荒井「今日は本当に参考になる講義をありがとうございました。大盛況でしたね。」
加東「ありがとう。みんなの前で話すとやっぱり緊張するね。」
そんなことを話していると、向こうから志村と、見慣れない顔の男性が近づいてくるのに気づいた。
志村「加東さん、すごい良かったよ今日の講義。私も仕事ツライときもあるけれど、それでも頑張ろうって思えた内容だったよ。」
加東「志村ちゃん、ありがとう。そう言ってもらえて励みになるよ。・・・あれ、そちらの方は?」
志村「私と同じ部の1つ先輩で、鏡(かがみ)さん。いつもお世話になっているの。」
鏡「初めまして!志村さんからよく聞いてましたよ。」
加東「初めまして。加東と申します。本日はお越しいただきありがとうございました。」
鏡「最新の会計基準のレジュメもすごくキレイに作られていて、わかりやすかったです。それにしても加東さん、文章が上手ですね。小説か何か書いていたことあるでしょう?」
鏡はニコニコしながらも、何か含みをもたせるように言った。
加東「いえ、特には・・・。個人的には日記をつけたりする程度ですが、書くことは好きですね。」
鏡「やっぱり、文章書くの好きなんですね!」
おもむろに、スマホを出して何やら操作したあと、鏡はスマホの画面を加東に見せた。
鏡「実は私、会計士向けに情報サイトの運営をしているんですよ。今度から新コーナーとして、現役会計士のコラムを掲載することにしたのですが、その執筆者を探していて。加東さん、ご興味ありませんか?複数名で執筆するのでノルマも厳しくありませんし、もちろん報酬もお支払させていただきます。」
志村「鏡さんのサイト、結構評判いいよ。実は私も情報とりにいくためにアクセスしてるんだ。加東さん、監査ばかりも飽きてきたなぁって前言ってたから、ちょっと気分転換にもなるかもと思って。どうかな?」
加東「鏡さん、魅力的なお話ありがとうございます!とても興味あります。志村ちゃんも、鏡さんを紹介してくれてありがとう。」
かくして、加東は副業として、鏡のサイトに毎月コラムを掲載する執筆活動を始めることになった。本業のリフレッシュになるだけでなく、ちょっとしたお小遣い稼ぎにもなる点は魅力だと加東は感じていた。
毎日充実した日々を送っている加東を、志村は見守っていた。そして、志村はある決意をしていた。
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