1.本項の目的

今回と次回のコラムでは、「航空機・船舶を使った決算対策①」で触れた、(日本型)レバレッジド・リース(通称“ジャパレバ”ないし“JLL”)の仕組みや、本商品を巡って15年ほど前に起きた訴訟について説明します。
10年ほど前の話ですが、既に販売されていない金融商品「ジャパレバ(以下「JLL」と言います)」と、現在も販売中でリリースされればすぐ売り切れてしまう「オペレーティング・リース(以下「JOL」と言います)」を混同され、クライアントへ不正確な説明をされた税理士にお会いしたことがあります。本コラムを通し、航空機・船舶を使った節税商品の基本的な仕組みだけでなく、これら2種類の金融商品の違いを理解していただきます。

2.仕組み

JLLやJOLの組成から剰余金分配までの主な流れは次の通りです。
 ①リース会社などが特定のリース事業のみを目的とした匿名組合を設立します。
 ②複数の投資家が①で設立された匿名組合に出資※します。 
  ※出資単位(一口)を3,000〜5,000万円に設定した商品が多いです。
 ③リース会社がアレンジし、匿名組合が金融機関から融資※を受けます。
  ※出資総額(②)の2〜3倍の金額を融資で調達する商品が多いです。
 ④匿名組合が航空機、船舶及びコンテナ等の資産を②と③で調達した資金を使って購入します。
 ⑤匿名組合が航空会社等へ④で購入した資産を賃貸(=リース)し、定期的にリース料を収受(収益計上)します。
 ⑥匿名組合が資産の減価償却費、支払利息等を費用計上します。
 ⑦匿名組合は、匿名組合が計上する損益を各投資家の出資割合に応じて投資家へ分配します。具体的には、⑤から⑥を控除した額になります。減価償却は(JOLの場合)定率法を使うため、また、支払利息は借入残元本が大きいほど高額となるため、リース期間の前半は⑥が⑤を大きく上回り、後半になり逆転し、徐々に⑤が⑥を上回る額が大きくなります。そのため、投資家は税の繰り延べを実現します。
 ⑧匿名組合は、リース期間満了後にリース資産を売却し、高額な収益を計上します。また、多くの商品では、このタイミングで剰余金が各投資家へ一括で分配されます。

3.JLLとJOLの違い

前項で説明した仕組みのうち、匿名組合と航空会社等との間のリース契約の種類(前項⑤)と、投資家が分配を受ける費用(損金)計上額(前項⑦)の2点で、JLLとJOLは大きく異なります。
JLLでは、匿名組合と航空会社等はファイナンス・リース契約を締結します。つまり、オペレーティング・リースと違い、リース資産の残価リスクがなく、リース資産の借り手である航空会社等の与信リスクを除き、匿名組合の将来の損益および剰余金の金額(=投資家にとっての利回り)はリース開始時点で確定します。逆の言い方をすれば、将来の中古航空機マーケットがポジティブであってもそのメリットを享受できません。また、オペレーティング・リースほどリース期間を柔軟に設定できません。
JLLの最初のLは、Leveragedつまり「てこ」です。匿名組合の場合、基本的にパス・スルー課税されることとされ、投資家はリース期間の当初において投資額を超えて損金が算入されました。平成17年度の税制改正により、実質的に投資額を超える損金算入が認められなくなり、JLLの税務効果がかなり減殺され、どのリース会社も販売を止めました。その頃からJLLに替わり主流となったのが、JOLです。
平成17年度税制改正の端緒になったと言われるのが、いわゆる名古屋事件です。

4.名古屋事件

日系大手証券会社系の金融商品取引業者が1997年から2000年にかけ、著名な経済評論家を含む資産家に対しJLLへの投資勧誘を行い、各投資家は、5,000万〜2億円を出資しました。
2002年、名古屋税務署が、この商品への出資により所得を少なく申告しているとして、このうち11人に対し計約5億円を課税しました。国税当局はその後、約2年かけて調査を続けた結果、「実態は税逃れを主な目的とする投資商品で、放置できない」との結論に達し、70人の資産家に対し、一斉課税に踏み切りました。修正申告に応じなかった投資家に対しては、追徴課税(更正処分)したと言われております。
国税当局解は、〈1〉出資者が航空機の売却時期の決定に関与できないなど、事業運営は金融商品取引業者に一任されていた〈2〉出資者が事業でリスクを負わない仕組みになっている等の理由から、JLLは民法上の組合契約(※)ではないとしました。
これに対し、名古屋国税局に先行課税された東海地方の11人が、課税処分の取り消しを求める訴訟を名古屋、静岡、津地裁に起こしました。
名古屋地裁は、各組合契約は、民法上の組合契約の成立要素を充足し「民法上の組合に当たる」と判断し、原告の主張を全面的に認める判決を下しました。
その後、名古屋税務署が控訴したため名古屋高裁での争いとなりましたが、2005年10月27日に控訴棄却となり、税務署の敗訴が確定しました。

(※)販売されたJLLは、商法上の匿名組合形態ではなく、民法上の任意組合形態でしたが、いずれの場合とも基本的にパス・スルー課税されることとされ、JLLで「てこ」を実現するために組成された投資形態でした。