高齢化社会などに対応するため、遺産相続のあり方について検討してきた法制審議会(法相の諮問機関)の部会で、相続分野の民法改正の要綱案がまとめられました(2018年1月)。

その中で、配偶者の居住権や、相続人以外の者を保護するための方策を設ける案が含まれましたのでご紹介します。

配偶者の居住権を保護する方策

・短期的施策:配偶者が、居住していた建物に無償で住めるようにする短期居住権の新設
・長期的施策:配偶者が、居住していた建物の長期居住権を選択できるようにする

(趣旨)
夫婦のうち男性が先に亡くなる場合、従来は、他の相続人の取り分を捻出するため、残された妻が持ち家を手放すというケースが多くありました。今回の改正案は、それを解消する内容となっています。

遺産分割が終わるまでの間は相続前の居住環境を継続させるのが短期居住権、自身の最期まで、または一定期間は住んでいられるようにするのが長期居住権です。

これにより、残された配偶者が身も心も準備が整わないうちに家を出ていかなければならない状況となることを防ぎ、慣れた家に住み続けることを選択できるようになります。そして、居住環境を確保したうえで、改めて法定分の遺産分割を受けられるように変わります。

相続人以外の者を保護する方策

・相続人以外の者が看護等により被相続人の財産の維持又は増加に一定の貢献をした場合について,相続人に対して金銭の要求をすることができる

(趣旨)
現行の民法では、家族などの法定相続人以外が遺産を相続することはありません。
そのため、近くで身の回りの世話をしてくれる人が相続人ではない場合、その人へ財産を渡すためには、生前贈与等により前もって対応しておくしかありません。それでは急に万が一のことがあった場合に対応できず、「遠くの親戚より近くの他人」という状況に対して「近くの他人」の立場が守られません。

今回の改正案では看護などに貢献した側から、相続人に対して金銭を要求できるような案が含まれています。実際には息子の妻が義父母の介護をしたケースなどが想定されています。

この点についてこれまでは、立場上、見返りを求めることが難しかったといえると思います。そのため、本改正案ではその点を法律面から支え、実質的に被相続人に対して貢献した人を保護できるように考慮されています。