会計士事務所・税理士事務所として独立開業し成功させるためには、優秀な人材の採用が不可欠と言えます。一方、転職希望者が複数の事務所からほぼ同時に内定を取得するなど売り手市場の続く会計業界において、優秀人材の採用は以前より難しくなりました。今回は、そんな採用マーケットにおいて中小規模の会計事務所が欲しい人材を採用するための具体的な方法について説明します。

選考期間はどのくらい?

近年、会計人材の採用マーケットは売り手市場が続いており、今後はその傾向がさらに強まるとの見方もあります。大手監査法人やコンサルティングファームと違いブランド力のない中小の会計事務所は、人材選考の過程においても応募者から選別されていることを忘れはいけません。

優秀人材を採用するために、給与・福利厚生といった待遇・雇用条件のほか、最近ではワークライフバランスが実現できる働き方が重要であることは言うまでもありません。特に女性を採用する場合、時短制度の有無や産休・育休制度の内容や取得実績に対する関心が高まっています。

採用活動においては、選考期間も重要な要素の一つです。特に中途採用の場合、応募者は他事務所と並行して転職活動を進めるのが一般的で、優秀な会計人材ほど他事務所と奪い合いになります。そのため、選考回数は必要最低限とし、面接と次の面接までの期間は1日でも短くしてコンスタントに応募者と接触しながら、他社に先駆けて内定を出すことで選ばれる確率が上がります。採用活動においては、事務所側の都合で面接回数を増やすケースがありますが、優秀な会計人材を確実に採用したい場合は避けるべきです。

書類選考のポイント

選考プロセスでは、採用後に高いパフォーマンスを発揮しそうな人材の採用を目指します。つまり、事務所側は選考プロセスを通じて応募者の能力を評価し、高い評価をつけた応募者へ内定を出します。

一般的に一次選考を書類で行う事務所が多いですが、間接評価しかできない履歴書や職務経歴書による能力評価の精度は低いと言われております。論理性、コミュニケーション能力およびパーソナリティといった点が分からないうえ、書籍やインターネット上の文章を転用して美しくすることができるからです。

中小規模の会計事務所であれば、短い時間の中で数名の応募者の中から選考を進めることになりますので、基本的に全員と面接するようにします。応募者からの書類は、面接時の参考資料として活用します。

ただし、採用したい人物に求めるスペックを採用活動の開始時点で明確化していれば、例えば出身大学、保有資格および会計業界の経験年数など書類から得られる情報が人物像からあまりにも遠い人は不合格とする、といった程度の使い方はできます。なお、応募者が人物像とあまりに掛け離れていた場合、利用する求人媒体や人材紹介会社とのコミュニケーションがうまくいっていない可能性があります。

グループ面接は有用

同時期に複数名の応募があった際は、グループ面接の実施をお勧めします。個別面談の場合は形式的な面談に陥らないよう対話形式で進めることが多いため、他の応募者との評価の比較が難しくなります。これに対し、グループ面接では複数の応募者へ同じ質問を投げるため、応募者間の比較が容易になります。一方、回答する順番が遅い応募者ほど考える時間があるため有利となりがちですので、質問によって回答の順番を変えるなどの注意が必要です。

面接のポイント

面接においては、応募者に対し事務所側の良い印象を与えることと、応募者の能力を最大限引き出すために話しやすい雰囲気を作ることが重要です。

前述の通り、応募者は採用選考を通じて事務所を選別します。特に面接官の印象はインパクトが大きく、並行して選考を進めている他事務所との間で待遇面や業務内容に大差がない場合、応募者は入社後に一緒に働くこととなる面接官の印象で入社先・転職先を決めることが多いです。逆に言えば、待遇面で多少見劣りしても、面接官の印象が他事務所より良ければ選ばれます。

また、面接では、コミュニケーション能力、論理性、パーソナリティ等のほか、仕事に対するスタンスや入社意欲などをジャッジしますが、応募者が面接時に緊張してしまうと、本来の能力を把握することができません。

そこで、面接官は質問の投げ方や会話の進め方を工夫する必要があります。用意した質問リストに沿って質問をそのまま投げるのではなく、通常の会話のように対話形式で進めることを心がけましょう。また、面接官から自己紹介や事務所の説明などを行うことで、応募者が話しやすくなる雰囲気を作るようにしましょう。

前職の勤務期間の短さや、会計士試験の合格までかかった時間の長さなどを追求するような質問は避けるべきです。逆に、例えば応募者が会計事務所での勤務経験がないようなケースであれば、事務所スタッフ全体でサポートする意思があることを面接の中で伝えると良いでしょう。

また、昨今は個人情報保護法の施行により個人情報の取り扱いが厳しくなっているため、業務とは無関係な個人情報(本籍、住所、家柄、思想・宗教など)を質問するのは避けましょう。

今回は、会計事務所の人材採用における選考の具体的方法について、選考期間、書類選考、グループ面接の特徴、面接のポイントの観点から説明しました。人材採用にあたり参考にしていただければ幸いです。